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| サカセ・アドテックの織機。約1000本の糸を針に通すだけで5日かかる。ゆっくり機械が動きながら、織り上げていく=福井県坂井市で |
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空飛ぶ円盤のような不思議な姿は、福井県坂井市の繊維メーカー、サカセ・アドテックの織機だ。極細の繊維を360度の方向から集め、正六角形の集合体を組み合わせた形に織っていく。縄文時代から伝わる日本の織物「三軸(さんじく)織り」をヒントに開発された素材は、軽くて高い強度を持つ。
この素材に、英国の老舗(しにせ)ブランド「グローブ・トロッター」が注目した。欧州のかばんのトップメーカーで、エリザベス女王ら世界の著名人が顧客リストに名を連ねる。創立110年を機に世界最軽量とうたうスーツケースを5月に発売する。ボディーに使われるのが、三軸織り素材だ。
機内持ち込みサイズで1.4キログラム。これまでのものと比べて約4分の1、という画期的な軽さだ。
新製品の開発に求めた条件は、「軽く、強く、しかも最先端」。米航空宇宙局(NASA)など世界各地からの提案の中で、選考を勝ち抜いたのが北陸の織物業者を中心とした共同プロジェクトだった。
三軸織りは、かごなどに見られる亀甲編みに似た布の織り方。繊維を縦、横、斜めの三方向に織り込んで六角形の集合体を作る。六角形は、さまざまな方向からの衝撃や加重、加圧などに強い。糸は東レ・デュポンが開発したアラミド繊維を採用した。防弾チョッキに使われる強度と硬性があり、熱にも強い。
織機も特製で、サカセ社は米国のパラシュート生地用の古い織機を買い取り、3年がかりで150カ所以上を改造した。円盤状に配置した16枚の板に、約1000本の糸巻きが突き刺してある。円盤を1時間に2周の速度でゆっくり回転させ、横糸を斜め60度ずつずらしていくことで、正六角形の三軸織りができる。
同社は創業20年で、社員は18人。衣料用繊維を手掛けていたが、10年前から工業用繊維に転身した。炭素繊維の三軸織りで釣りざおやゴルフシャフトを生産、人工衛星用アンテナ生産量では世界のシェア70%を誇る。米国のカール・ルイス選手が世界記録を出した時のシューズなども作った。知る人ぞ知る、いわば「小さな世界一」である。
「エコロジーのために画期的な軽さが必要だった。重いと、お金も燃料もかさむ」とグローブ社の担当者。世界のかばん業界はいま、軽量化を必死に競っている。環境問題が重視される中で、軽さはデザインや他の機能性に優先する要素になったからだ。
デザインを担当したロス・ラブグローブ氏は「従来の技術的追求の延長では到達できなかったことが、日本の古代以前の知恵の中に潜んでいた。驚き、感動した」と語った。
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| グローブ・トロッターの最新モデルを手にするデザイナーのロス・ラブグローブさん=東京都新宿区で、安藤由華撮影 |
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中小・零細 ワザ組み合わせ
世界最軽量のスーツケースの素材を開発した共同プロジェクトの背後には、1人のコーディネーターの存在があった。東レ・デュポン常務理事で、工学博士でもある小菅一彦さんだ。北陸を中心とした繊維産業の再活性化を目指す東レ合繊クラスターのアドバイザーである。
海外評価狙い
小菅さんはかねて、伝統技術をしっかりと受け継いできた中小・零細企業の力を結集すれば、大きな力を発揮すると考えてきた。
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| スーツケースに使われた三軸織りの生地 |
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福井県坂井市のサカセ・アドテックと三軸織りは、注目していた企業と技術だった。だが、「強度をさらに高めるため、張り合わせる補強材が欲しい」。小菅さんは、同じ坂井市丸岡地区の丸八(まるはち)に声をかけた。炭素繊維を使った超軽量の医療用酸素ボンベや自動車用燃料電池の容器などを作っている企業だ。
丸八もまた、服飾生地メーカーからの転身組。欧米や中国からの衣料品の輸入増で服地の需要が頭打ちになったからだ。今ではマリンスポーツ用の資材など一部の商品は海外からの需要の方が多い。社員は20人。菅原寿秀取締役は「小さい会社だから、海外で認められれば、ハクがつくかと思って頑張った」という。
補強材は丸八が担当することで解決した。次の課題は、アラミド繊維と炭素繊維の二つの生地を軽く硬く成型する方法だった。
熱で硬くなる樹脂を染み込ませたシートを重ねて、熱と圧力をかける方法がいい、とわかった。圧縮することで繊維の密度が上がり、余分な樹脂や空気が除かれて軽く強度も高まる。小菅さんは、レーシング用バイクを塗装、成型している大阪府門真市のエー・テックに目をつけた。
同様の技術を持つ会社は他にもあるが、複雑で微妙なスーツケースの形を手作業でやれるのは、カワサキやイタリアのドカッティのバイクも手がけるエー・テックしかないと踏んで、参加を口説いた。
社員8人でも
同社は社員8人。これまでファッションブランドの世界は無縁だったが、「小菅さんの熱意にほだされ」(宮崎明人代表)引き受けた。「高齢化社会が進んで、バイク産業も先細りしそうだ」という将来への心配もあった。
スーツケースは外観の美しさが問われる。パーツごとに切った小さな生地を1枚ずつ手でかたどり、ドライヤーを当てながら積み重ねて熱圧縮機に入れる。スーツケース一つを仕上げるのに丸2日かかった。バイク製作の仕事と重なると連日の徹夜になり、社員を「寝たらあかん」と励まし、栄養剤を配った。
小菅さんは「1人でも欠けたら、プロジェクトは達成できなかった。ピカイチの技術があっても、組み合わせることが大事なんです」と語る。
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| ランバンの08年秋冬パリコレクションより |
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日本の布に海外ブランドの目
日本の生地メーカーが作る衣料用の布に注目する海外有名ブランドが増えている。シャネル、エルメス、マックスマーラ、イヴ・サンローラン……。日本の素材は先端的で、手が込んでいる割に扱いやすく、独創性にも富んでいるからだという。
今年春に開かれたパリ・コレクションでは、ランバンが日本製のリボンを大量に使った(写真=大原広和氏撮影)。1年前は、ルイ・ヴィトンのデザイナーが「日本の生地に助けられた」と語って話題になった。福井で作られたその生地は、ショー直前に注文が入り、小松から羽田、成田、パリへと手渡しで届けられた。ミラノでも、ジル・サンダーがここ毎シーズン、合繊やポリエステルとシルクの混紡地を愛用している。
2月にパリで開かれた高級生地の見本市プルミエールヴィジョンには、日本から過去最多の27企業が参加。ユーロ高の中、輸出で業績を上げる生地メーカーが多く出ている。
(文・高橋牧子 写真・鎌田正平)
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